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大阪家庭裁判所 昭和46年(少ハ)12号 決定 1971年8月12日

少年 M・O(昭二六・二・三生)

主文

本人を、昭和四六年一一月一九日までを限度として、当庁調査官沢野順三の試験観察に付する。

愛知少年院長は、少年院法一一条七項に基づき、右試験観察の期間中本人の収容を継続することができる。

理由

一  本人は、昭和四五年八月二〇日中等少年院送致決定(当庁昭和四五年少第四九一三号・第五二五一号、恐喝・窃盗・窃盗未遂・器物損壊保護事件)・同月二二日奈良少年院(中等少年院)入院・昭和四六年三月一〇日愛知少年院(特別少年院)移送というような経過をたどつて現在愛知少年院に在院中であるが、少年院法一一条一項但書の院長権限により継続されてきた収容期間が昭和四六年八月一九日をもつて満了するものであるところ、同少年院長から「未だ犯罪的傾向が矯正されておらず引続き約六か月間の院内教育とその後約二か月間の二号観察が必要である」として右収容期間満了後八か月間の収容継続決定を申請されているものである。

二  本人は、愛知少年院へ移送されて後は無事故賞(三か月)を受賞するなど成績良好でその処遇段階もすでに一級下に達しているのではあるが、奈良少年院在院中の不良な行状(反則事故五回-窓ガラス破壊・喧嘩・落書・額の毛抜き・不正洗濯-それぞれ謹慎ならびに減点処分)・少年院入院前の放縦な生活態度・自己顕示性が強く衝動的行動に走りやすいといつた如き性格傾向などの問題点に鑑みるときは、出院後における家庭の引受体勢などの実情をも考慮したうえでなければその犯罪的傾向が矯正されたか否かの的確な判断はなし難い現況にあるものと認められる。

三  ところで、本人については、先の中等少年院送致決定当時から家庭環境面に問題がみられ、その点の調整が行なわれないかぎり本人の健全な保護育成を期し難いと判断されたので、当裁判所としても本人自身に対する保護処分を決定すると同時に少年法二四条二項に基づき大阪保護観察所長に対し環境調整の措置を命じ(中等少年院送致決定の決定書参照)、その後も少年法二八条に基づき同所長に対し右調整措置の実施状況に関する報告を求め、同所長から「種々努力している」旨の回答を得ていたものであるが、本件収容継続申請事件に基づき担当調査官が調査した結果によると、<1>実父母は本人の少年院入院以後においてもお互いに話しあうというような機会は一度も持つておらず、それどころか、昭和四六年六月には実母が実父に無断で離婚届を提出し戸籍上すでに協議離婚が成立している(この事情は今日に至るも実父に知られておらず、大阪保護観察所長側にも把握されていない模様である)など、両者の関係が改善されるどころか完全に破綻してしまつている現況にある、<2>実父は本人を自分のところへ引取つて本人の叔父(実父の弟)が勤務している鉄工所で工員として就労させたいとし、実母も本人を自分のところへ引取つて親しい知人が勤務している運送会社で自動車運転助手として就労させたいとしており、その間の調整がなされていないこととて、本人としても、双方に対する気兼ねなどから、実父母のうちいずれのもとへ帰るべきかその態度を決しかねている実情にあり、家庭環境面の問題が何ら改善されておらず、この点に関し大阪保護観察所長側が当裁判所の命じた環境調整措置を十分に講じてこなかつたばかりか今後右措置を講じていくことについても消極的態度を表明している現況にあることなどが判明するに至つたものである。

なお、愛知少年院長においても、奈良少年院側から「家庭の受入体勢不良」との環境調査報告書(大阪保護観察所長作成)を引継いでいることとて、別途に大阪保護観察所長に対し本人の帰住先などに関する環境調整方を依頼しているが、同所長からは現時点に至るまでそれに関する何らの回答を寄せられておらず、同院長としても本人の帰住先など家庭環境面の問題を確認しえないでいる現況にあるものである。

四  本件の調査段階において担当調査官が以上の如き家庭環境面の問題(とくに本人の帰住先の問題)に関し種々調査・調整を試みるもこれまでのところ調整未了という現況であり、諸般の事情をかれこれ考えあわせてみるとき、当裁判所としては、その期間を上記収容期間満了後三か月間と限定したうえ、担当調査官をして引続き本人の帰住先の確定など環境面の調整措置にあたらせるとともに少年院側からその間における本人自身に対する院内の処遇状況に関する報告を受けるなどして本人の動向を観察し、その両者の状況を確認したうえであるというのでなければ、本人の犯罪的傾向が矯正されたか否かの的確な判断に基づき本人の円滑な社会復帰の実現を期した終局処分を確保していくことが困難な実情にあるというべく、この際は本人自身に対する少年院側の処遇自体には介入しない旨を確認しておいたうえ、本人を担当調査官の試験観察に付することが相当であると思料される。

五  以上の次第であるから、少年審判規則五五条によつて準用せられる少年法二五条一項、少年院法一一条七項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原宏武)

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